私は小さな花屋を営んでいる。
その花屋に毎週火曜日に必ず来てくださるお婆さんがいる。
上品な趣きで薄く化粧をし、チワワを抱えて店に入って来られる方だ。
チワワは大きなおメメでキョロキョロしながら色とりどりの花たちに興味深々。
でも暴れること無くお婆さんの腕の中で良い子にしている。
ちなみにミンミちゃんという名前だそうだ。
「今日はどのお花にする?」
とミンミちゃんに聴きながら選んでおられるが、1番のお気に入りはスズランの花だ。
そして、買い物が終わるとお婆さんはスズランの入った花束を抱えて出て行く。
ミンミちゃんはお婆さんの歩く速度に合わせてゆっくりゆっくりと歩いてついて行った。
その首輪にはスズランのような小さな鈴がついていてチャリンチャリンなっていた。
そんな日のこと、「アレ?今日は火曜日だよね?ミンミちゃんたち、来ないね?」と旦那と話していた。
毎週の恒例だったので、現れないと変に心配になってしまう。
でも、それから2カ月、ずっとお婆さんは来店しなかった。
ある日、近所の方から電話があり、お葬式の花の依頼があった。
お客様のお家に行き、お写真を拝見すると、にこやかな微笑みを浮かべたあのお婆さんだった。
聞くところによるとあれから病気でずっと入院されていたそうだ。
私はお婆さんがいつも好んでいたスズランやトルコキキョウなども一緒に飾らせていただいた。
“いつもありがとうございました”という気持ちを込めて。
愛犬のミンミちゃんも黒いリボンをつけてしょぼんとしていた。
「ミンミちゃん、寂しいね…でも、おばあちゃん、ミンミちゃんのおかげで幸せだったよー」
と声をかけると、覚えてくれているのか、尻尾を振ってくれた。
しばらくしたある日の事、見た事のない若い女の子が来店した。
イマドキの女子高校生という感じで、服装も今風の子だ。
その子の腕の中で見覚えのあるチワワがキョロキョロしていた。
「あれっ!ミンミちゃん!」
「キャン 、キャン、キャン!」
やっぱり、そうだ!
聞くと、この女子高校生はあのお婆さんのお孫さんで、お婆さんが亡くなった後、ミンミちゃんを引き取ってくれたそうだ。
その女の子は「この先のペット美容院でトリミングした帰りに、お母さんからおばあちゃんの花を頼まれたの」と話してくれた。
「そうだったのね〜。おばあさまは、スズランがお好きでしたよ!」
「え〜そうなんですか?」
と少し気に入らない感じの様子。
すると、ミンミちゃんが「キャン、キャン!」と反応した!
私がスズランをミンミちゃんに近づけると、くんくんと匂いを嗅いで、
「コレ!コレ!コレにして〜」と言っているように鳴いた。
「えー!ミンミこれが良いの?どうしよう?」
そこで私が提案した。
「じゃあ、こうしませんか? 別のお花、身つくろいますので、このスズランは私からミンミちゃんにプレゼントさせてください。ミンミちゃん、お花の匂いでおばあさまを思い出したみたいだから…」
「そうなんですか〜!ありがとうございます」と答える女の子。
そう言っていつもお婆さんが抱えて帰っていた花束を抱えて女の子は帰って行った。
ミンミちゃんも尻尾をフリフリ嬉しそうに小走りでついて行く。
フリフリのかわいい洋服を着せられ、大きなピンクのリボンをつけられていたが、お婆さんの時と違ってしっかり走っていた。
ミンミはずっとお婆さんに合わせて歩いていたんだね。
「またのご来店をお待ちしております」と二人を見送りました。
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