ウチの主人はペットを飼わない主義で、私は飼いたいと思っていたが、主人がウンと言わなかったので、ずっと諦めていた。
それでも子育てなどあり、忙しかったのでそれほど気にはならなかった。
でもそんな娘も中学生になり反抗期に入って「お父さん嫌い!」宣言をして、素っ気ない態度をとるようになった。
そんな反抗期の娘が「ワンコを飼いたい!」と突然言い出したのだ。
「娘よ!それだけは無理なのよ〜。私も何回も言ってもダメだったんだから〜」
でもあっさり「いいよ。」と答える夫!
「えー!私にはずっとダメって言ってきたくせに!」と文句を言いたかったが、ちょっと哀れな感じがしてやめた。
「お父さん大、大嫌い!」になるのを回避したかったのよね…。
そんな娘が選んだのはチワワのオスで、チョコと名づけられた。
ただペットが好きでは無い主人は、チョコのことを「イヌ」と呼んで、無関心な態度を取っている。
そんなんだから娘も主人にチョコを触らせる気もないようだ。
こうして父と娘の間の溝は深まるばかりだった。
そんなチョコを飼い始めて半年位経ったある日の事私は風邪をひいてパートを休んで寝ていた。
でも3交代で出かける前の夫の話し声でフッと目が覚めた。
そして、リビングの方へ行ってみると、そこで見た光景に目を疑った!
主人がチョコを膝に乗せてナデナデしていたのだ!
「チョコ、俺のこと好きか?」
「クークー」
「そうか、マミ(娘の名前)より好きか?」
「ワン!」
「そうかそうか!チョコはいい子だな〜」
アラ!チョコを手なずけているじゃないの!
私たちの前では、無関心な態度をしているのに!
チョコがかわいくて仕方ないなら、素直になればいいのに…。
こんな主人を見ることないだろうから、私はしばらく見学することにした。
「チョコ、俺、仕事頑張ってるよね?」
「ワン!」
「今日は夜勤だから1日会えなくて、さびしい?」
「ワン!」
「そうかー、俺もさびしいよ。でも、チョコが応援してくれるから頑張って来るよ!」
そう言って、作業着のポケットから“高級ジャーキー”を取り出した。
なんと!姑息な!高級ジャーキーを隠しもっていたか!
そりゃチョコだって高級ジャーキーのためなら、愛想振りまくよね〜。
「こんど、一緒に散歩してあげるね〜」
「クークー」
「ほんとはマミとみんなで遊べたらいいんだけどね〜ごめんな〜。」
「クークークーン」
「俺、不器用でさッ。チョコには何でも話せるのにね…本当は、“ありがとう”とか言えばいいんだよなぁ〜」
そう言って、主人はチョコの毛に顔を埋めた。
その背中を見て私は、主人を抱きしめたくなったが、なんとも素直に出ていけない自分がいた。
その後、主人は静かに仕事に出かけて行った。
主人がそんなことを思っていたなんて…なんか見てはいけない物を見たような気分。
チョコを膝に乗せてしばらく呆然としていた。
「今度はお母さんの番?」と言いたげなチョコに
「ごめん。高級ジャーキーはないよ〜」
「チョコ、お父さんのためにありがとうね〜。きっと、マミの部屋ではマミの話を聞いてあげてくれてるんだよね〜。チョコはこんなに小さいのに我が家みんなの相談係なんだねー」
「チョコ、もうひと肌脱いで、マミとお父さんの仲を取り持つの協力してくれない?」
「ワン!」
「高級ジャーキー、1袋でどうですかね?」
「ワン!ワン!ワン!」
契約成立である。私もチョコと秘密の関係になった。
その週の日曜日、なんと娘の前でお父さんの膝に飛び乗ったのだ!
チョコのくつろいだ様子に娘も拍子抜けして、
「アレ?なんで?チョコお父さん好きなの…?お父さんもチョコ嫌なんじゃないの〜?」
と半笑いしている。
すかさず、「お父さんはチョコもマミも好きなんだよね〜」と私。
「ハハハハッ!」と主人が笑った。
「やだ〜変なの〜」と言っている娘もまんざらでもない様子。
良かった。チョコありがとう!
キッチンに来たチョコに、「仕事、速いですな〜。」と言うと、
「家族として当然なことをしたまでヨ!でも、例のモノよろしくです。ワン!」
「ハイ、ハイ!わかっておりますぞよ。」
と高級ジャーキーをあげた。
「何!コソコソやってんの? アー!お母さん、チョコに高級ジャーキーあげてる!」
と娘が叫んだ!
ハッ!と主人を見ると、
「お前もか!」とほくそ笑んでいた…。
動画版「ほのぼの話」
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